はじめに
近年日本でのヨガ人口が増えている。
女性を中心にホットヨガが流行していることも、ヨガの認知度を高めていると言えるだろう。
私自身、ホットヨガを経験しヨガをもっと深く学びたいと思った経緯がある。
しかし、Ananda Yogaでヨガについての学びを深める内、ホットヨガは果たしてヨガと言えるのか疑問に思うようになった。
このエッセイでは、私自身の経験を踏まえ、ホットヨガはヨガなのかについて考究していきたい。
ホットヨガの起源
ホットヨガの起源は日本で、1970年にインド人のビクラム・チョードリー氏により考案されたといわれている。
以下、ビクラム氏により設立されたビクラムヨガのHPより抜粋した内容である。
「1970年の2月に来日し、東京でヨガスタジオを開くことになりました。
年中暑いインドに較べて、真冬の東京は凍てつく寒さ。
新宿の雑居ビルの10階にあったスタジオでヨガを教え始めたのですが、寒すぎて皆うまく身体が動きませんでした。
そこで、生徒さんたちが家からストーブを持ち寄ってくれました。
部屋を暖かくすると、筋肉や関節が柔らかくなってスムースに動けるようになり、身体の痛みもなくなったと皆大喜びでした。」
こうして、高温多湿な環境下で行うホットヨガが生まれたという。
現在日本で最大手のホットヨガスタジオが2004年に設立されると、2000年後半には日本で本格的にホットヨガが流行し、現在に至るとされている。
ホットヨガの効果からみる需要
高温多湿の環境下で行うことによる、ホットヨガの効果とはどのようなものがあるのだろう。
某ホットヨガスタジオのHPには、以下の内容に対し効果があると記載されている。
ダイエット / 冷え性 / むくみ / 肩こり / 便秘
そして、このすべての内容に対し関係するのが、ホットヨガならではの発汗作用だという。
大量の発汗とこまめな水分補給により、体内の老廃物を排出することが、上記のような様々な内容の改善に役立つという。
その他にも、美肌効果や体内の自律神経の調整、体温調節機能の向上も見込めるとされている。
また、前述したように、体が温まることで体がほぐれポーズをとりやすくなる側面もあり、これらの効果を促進しているという。
ここから、ホットヨガは主に、美容と健康に対する効果を期待できホットヨガスタジオもそれを全面に打ち出していることが分かる。
私が現在通うホットヨガスタジオは、ヨガマットやウエア等以外にも、ダイエットサプリやプロテイン、コラーゲンドリンク等の宣伝販売を行っている。
ドリンクの試飲もあり、物販に力を入れているように感じる。 実際に購入し使用・継続している生徒も多いようだ。
ここから、ホットヨガは比較的外見や肉体の美しさに対し重点を置いている、という印象を受ける。
ホットヨガインストラクターの現状
現在、ホットヨガスタジオは全国各地に多数存在し、大手3社の店舗数を合算すると約530店にも及ぶ(2019年3月時点)。
ホットヨガインストラクターの多くは、スタジオの正社員として雇用される。
多くは、未経験から数か月の研修後インストラクターとしての活動を始めるようだ。
しかし、ホットヨガインストラクターの業務は過酷で、離職率が高いといわれている。私が過去通ってきた2つのホットヨガスタジオでも、数か月に1回半数以上のインストラクターが入れ替わったり、新人の方が入ったかと思えばいつの間にか退職していたり…それを肌で感じてきた。
また、大手のスタジオの雇用条件に多いのが全国転勤型の形態である。
各店舗のインストラクターの不足を、こうした形態にすることで補っているのではないだろうかとも推測できてしまう。
また、スタジオ内にはインストラクター募集の張り紙があり、そこには生徒(客)からインストラクターになった人が年間で約6割にも上ると書かれていた。
マニュアル化されたヨガクラスである以上、それが可能になる仕組みであることも分かると同時に、入れ替わりが多いのではないだろうかとも感じる内容だ。
しかし、前述したホットヨガの効果を振り返ると良いことばかりに感じる。
高い離職率の裏にはどんな要因があるのだろう。
ホットヨガのデメリット
ホットヨガインストラクターの高い離職率から、その要因となるようなホットヨガのデメリットは何か。
調査を進めると、前述したホットヨガの効果に関係する大量の発汗作用に紐づき、様々なデメリットが浮かび上がってきた。 今回は2つの要因に焦点を当てようと思う。
まず初めに、そもそも、高温な環境下での運動は危険とされていることはよく知られた事実だ。
夏になると熱中症や脱水症状への対策をテレビでも繰り返し取り上げられている。
実際、日本体育協会のサイトにおいては、以下のように記載されている。
気温35℃以上では運動は原則中止:特別の場合以外は運動を中止する。特に子供の場合は中止すべきである。
熱中症等を防ぐため、インストラクターから促され、インストラクター含め皆がこまめに水分をとっている。
しかしなぜか私は過去、クラスの途中で嘔吐し身体が痙攣したことがあった。
当初スタジオ側から忠告されていた、食後から時間を空け、かつクラス前には家でゆったり過ごし、クラス前から十分な水分を摂り、身体に決して無理がある状態ではなかったのに、である。
今振り返ると熱中症だったように思う。 水分補給も追いつかないほどの発汗で塩分やミネラルまで奪われ、その状態で水分補給したことにより血中の塩分・ミネラル濃度が低くなり、症状が現れたと考えられる。
つまり、塩分等は摂取せず水分だけを補給することがかえって、熱中症の発症へとつながる可能性があるのだ。(常温の水や水素水を推奨するスタジオが多い)特に夏季は、日常生活でも発汗することが多いため、リスクは上がると考えられる。
続いて、クラス中の高温な環境と、その後の常温の環境の行き来による気温差からくる体の不調も頻繁にみられる現象だという。 いわゆるクーラー病といわれるもので、不眠やうつ、頭痛、肩こりなどの症状を引き起こす。 これらは自律神経の乱れが原因の症状である。
上記2点は、どちらも生徒としてクラスを受ける場合も考えられるデメリットではあるが、1日に3回前後のクラスを担当するホットヨガインストラクターにとってはこれらのリスクは何倍にも跳ね上がるだろう。
特に気温差による自律神経の乱れについては、1日に複数クラスを行う業務に加え、職業柄常に健康的であるようにふるまおうとすればするほど自律神経のバランスを崩す場合が多いのだという。
ホットヨガと「心」
ここまでを振り返りひとつ大きな違和感を持った。
ヨガの父パタンジャリが説いたヨガは、「心の作用を止滅(コントロール)する」ことである。
ハタヨガにおいても、生命エネルギーであるプラーナをコントロールすることで自然と心もコントロールできるとされ、ヨガを学ぶにあたり心の存在を無視することはできない。
しかし、ここまでで述べてきた近年流行しているホットヨガに関して、前述した某スタジオのHPにも心に関する内容はほぼ触れられていない。 むしろ、気温差により自律神経が乱れるリスクも明らかになった。
結論
近年知られているヨガは、エクササイズの一つとして、またホットな環境をプラスすることで、ダイエットや美容に効果的なツールとしての印象が強く見受けられた。
主に外見の美しさを提供している、とも言い換えられるのではないか。
大衆に向け、ビジネスとして行うヨガにおいてはそちらのほうが受け入れられやすく、そうなってしまうのはある程度仕方のないことだと感じる。 私自身始めた当初は、内面に対する効果よりも痩身効果を期待していた。
その一方で、今回考察を進め感じたのは、近年流行りのヨガ、言い換えるとホットヨガは、どうしても心身に「無理」が生じているのではないかということだ。
それは、生徒もインストラクターも。 確かに、適度に行えば、私が実際に感じたように手軽に汗を流せてダイエット効果もあり、爽快感が味わえるという点でむしろ運動が苦手な人にも継続しやすいエクササイズといえると思う。
ホットヨガに人気が集まるのはこうした要因が大きいだろう。
ただ、それはあくまでもエクササイズである。
そして、「無理」が生じている時点でそれはヨガとは言えない。
また、私が通うスタジオでは、一定数クラスを受講した生徒向けに、優秀なインストラクターが考案したクラスを受けられるという仕組みがある。
そのクラス内容を見ると、なんとほとんどが常温で行うものだった。
ここからも、ヨガとしての本質を伝えるには、常温が適していることを暗に示しているとは言えないだろうか。そしてスタジオ側も、ホットヨガはエクササイズ要素の強いものだと認識しているのではないかとすら感じてしまう。
最後に
仕事を辞めヨガだけを行う時間が欲しい、とホットヨガスタジオにほぼ毎日通いながらAnanda yogaでヨガを学ぶうち、この二つのヨガの違いを実感するようになった。
スタジオには至る所にサプリメントなどの広告が張り巡らされ、クラス終わりにはシャワーの争奪戦が起こり心の休まる場所とは言えないと感じるようになった。
また、毎日2レッスン受講していた私は、確かに少しやせたが常に疲労感が残っていた。
クラスによってはハードなものもあり、シャバーサナすら落ち着かず心地悪く感じることもよくあった。
ストレス社会といわれる昨今、ヨガが現代人にもたらす効果は大きいはずだ。
しかし、本来のヨガを提供している場は少ないのではないかとすら感じるほど、Ananda yogaでヨガを学ぶ度私が行っていたヨガは非常に表面的なものだったと感じている。
一つのアーサナにつき数回しか繰り返さず、初心者向けのクラスでは40種類以上ものアーサナを組み込んでいる、というインストラクターからの説明があるほどだ。
ナディショダナをクラスの冒頭に行っていることに気づいたときは内心驚き様々な思いがよぎった。
しかし、この流れを変えることは容易ではないだろう。
本質を伝えようとするとどうしても宗教的な印象を持たれやすく、そこに大衆が求める需要は大きくはないのかもしれない。
しかし、本物のヨガを学び実践することで、ヨガを通して心身の平安を感じさせることのできるインストラクターを目指したい、と考えるようになった。
外見などの目に見えるものにばかり意識を向け必死に行うのは、ヨガではなく文字通りエクササイズを行えばよいからだ。
ヨガの魅力を感じたからこそ、実践しどんどん実感したい。
そうすることで私自身本物のヨガを体で、心で、吸収し、それを伝えられる存在になりたい。